肝臓とはおなかの右上部へ位置し、1~1.5kgの重量がある体の中で最も大きい臓器です。体にとって必要なタンパク質の合成、栄養の貯蔵、毒物の分解・排出や、胆汁という消化液を作るなどの仕事を行っており、人間が生存するために欠かせない臓器です。
肝臓の細胞ががん化して悪性腫瘍となったものです。発生元の細胞により肝細胞癌と肝内胆管癌とに分けられます。また、大腸や胃の癌が肝臓に転移したものもあり、転移性肝癌と呼ばれています。
肝臓は痛みを感じない臓器であるため、かなり大きくなるまで見つけにくいことがあり、自覚症状がなくとも超音波検査やCT検査で偶然診断されることがあります。
日本では1年間に38,000人ほどが肝臓癌と診断され、悪性腫瘍の中では第7位です(死亡者数は第5位)。これまではB型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎、肝硬変の患者さんに発生することが主でしたが、近年ではアルコール性肝障害や脂肪肝、糖尿病を背景とした肝臓癌が増えてきています。
腹部超音波検査:
超音波を用いて肝臓の断面をみる検査です。脂肪肝や慢性肝炎がないか調べたり、腫瘍を見つけるために行います。肝臓に腫瘍があった場合、治療が必要のない良性腫瘍なのか治療が必要な悪性腫瘍であるかを調べるために後述のCT検査などを行います。
病期とはがんの進行の程度を示す言葉で、Ⅰ~Ⅳに分類されます。数字が大きいほど癌が進行していることを意味します。病期は、腫瘍の大きさ、数、肝臓内の血管への広がり、その他の臓器への転移の有無によって決まり、治療法を選択する上で重要となります。
肝細胞癌、肝内胆管癌の病期(ステージ):
*Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類とは、肝臓の障害度を表す指標です。血清ビリルビン値、血清アルブミン値、プロトロンビン時間、肝性脳症、腹水といった項目から決まります。診察と、一般的な採血検査、および超音波検査を行うことで判定できます。Child-Pugh分類Aは軽度の肝障害、Bは中等度、Cは重度の肝機能障害、肝硬変であることを意味します。
肝内胆管癌:
遠隔転移(肝臓以外の臓器への転移)がなく、肝予備能に問題なければ肝切除が最も根治性が望める治療です。腫瘍が肝臓の端の方にあるか、中心部に近いかで切除法が変わり、場合によっては肝臓を大きく取ったり胆管も切除して胆汁の流れるルートを再建することが必要になることもあります。
転移性肝癌: 手術による肝切除は、目に見えている腫瘍を確実に摘出し体から取り除くため、原発性肝癌(肝細胞癌および肝内胆管癌)や転移性肝癌に対しては最も根治性が高い治療といえます。ただし、肝臓を手術で切除することは体への負担がやや重い治療法です。
どこから発生した癌が肝臓に転移したかによって方針が変わります。最も肝切除の対象となることが多いのは大腸癌からの転移で、切除により根治が望める可能性があります。その他、胃癌、卵巣癌、神経内分泌腫瘍なども、肝臓以外の転移がコントロールされている場合は肝切除により根治や生命予後の改善が望める可能性があるため、手術療法の対象となります。転移の場所、個数、大きさ、肝予備能を考慮して肝切除が有用であるか、または化学療法(抗がん剤)、放射線治療がよいか個別に検討して適切な治療方針を考えます。
肝切除のメリット、デメリット
肝臓は切除しても再生する臓器で、正常な肝臓なら全体の70%程を切除しても3~6ヶ月ほどでもとの大きさに戻ると言われています。ただし肝硬変となっていたり肝予備能が低い場合は十分に再生せず、肝切除後に肝不全となり命に関わる可能性があります。このため、手術前には様々な検査で肝予備能を評価してどれくらい切除できるかを個別に評価します。また、全身麻酔での手術に耐えられるかどうか、心機能、呼吸機能、腎機能などを評価し、適切な治療法を検討しています。さらに当院では低侵襲肝切除(腹腔鏡やロボットを用いた手術)を行っており、できるだけ小さい傷、少ない出血量で手術を行うことで体への負担を減らす工夫を行っています。(ただし、心臓や肺、腎臓に重篤な病気がある場合は腹腔鏡手術に向かない場合があり、最適な手術法を個別に検討していきます)