心臓血管外科

診療・疾患について

冠動脈疾患

 心臓は心筋と呼ばれる筋肉で構成され、心筋が収縮と拡張を繰り返すことで全身の組織に血液を送り出すポンプの役割を担っています。心臓が正常に機能するためには心臓自身にも酸素とエネルギーが供給される必要があります。この心臓自身に血液を供給する血管を「冠動脈」と言います。

 冠動脈に狭窄病変が存在して心臓自身への血液供給が不十分になった状態を「狭心症」といい、冠動脈が閉塞して血流が途絶し、心筋が壊死してしまった状態を「心筋梗塞」といいます。症状は多彩で胸痛、胸部圧迫感、背部痛、心窩部痛、肩痛、歯痛、息切れなど様々です。
当院では個々の患者さんに対する治療方針を循環器病センター内で循環器内科医と相談しながら決定しております。多くの患者さんに対して「薬物治療」や「カテーテル治療」などの内科的治療が行われますが、病変の部位・数によっては「冠動脈バイパス手術」が行われます。冠動脈バイパス手術は、狭窄あるいは閉塞している冠動脈の先に新しくバイパス血管(グラフトと言います)をつなげることで血流を改善させる手術です。グラフトには患者さん自身の血管を採取して使用します。その種類として、内胸動脈、橈骨動脈、右胃大網動脈、大伏在静脈があります。使用するグラフトの種類は各患者さんにごとに最適な組み合わせを検討して選択します。

 手術方法は2つに大別されます。1つは従来から行われている方法の人工心肺を使用した冠動脈バイパス術であり、もう1つは人工心肺を使用しない「心拍動下冠動脈バイパス術(オフポンプ冠動脈バイパス術)」です。後者のオフポンプ冠動脈バイパス術は1990年代後半から発展してきた手術方法で、患者さんの体への負担がより少ない方法です。当院では、オフポンプ冠動脈バイパス術を積極的に導入しております。同手術法は、人工心肺を使用しないことで人工心肺の副作用を回避でき、低侵襲の手術を実現できます。

弁膜症

 心臓は、全身に血液とともに酸素を供給する役割をしています。血液は全身に酸素を届け、また心臓に戻ってきます。この一連の動きは休むことなく、1日におよそ10万回も繰り返されています。この血液の流れを一方向に維持するため、心臓には4つの部屋があり、それぞれの部屋の間には弁がついています。

 右心房と右心室の弁が「三尖弁」、右心室と肺動脈の間の弁が「肺動脈弁」、左心房と左心室の間にあるのが「僧帽弁」、左心室と全身をめぐる大動脈の間にあるのが「大動脈弁」です。
 心臓の4つある弁に障害が起き、本来の役割を果たせなくなった状態が「弁膜症」です。1か所の弁で起こることも、複数の弁が機能しなくなることもあります。
 弁膜症には大まかに2つのタイプがあります。弁の開きが悪くなって血液の流れが妨げられる「狭窄症」と弁の閉じ方が不完全なために、血流が逆流してしまう「閉鎖不全症」です。
 弁膜症はどの弁でも起こりますが、とくに「大動脈弁」と「僧帽弁」に多く起こる疾患です。
 弁膜症と診断されて、すぐに手術が必要となる場合と、しばらく薬などの内科的な治療で症状を緩和しながら様子を見る場合とがあります。ただし弁膜症そのものは薬では治らないので、根治するためには外科的治療やカテーテル治療が必要になります。また弁膜症は、最初は弁という一部分の病気ですが、進行すると心筋(心臓を動かす筋肉)という心臓全体の病気になり、弁を治療しても根治が難しくなります。そのため心筋の障害が進行する前に治療を受けることが大切です。

 外科的な治療では、開胸して弁の悪い部分を修復する「弁形成術」と、弁そのものを人工弁に取り換える「弁置換術」があります。

 当院では患者さん一人一人の病態・症状・年齢などに合わせて術式・人工弁を選択致します。また高齢者に対してはワーファリン投与の副作用低減をめざして、積極的な生体弁の使用と僧帽弁に対する弁形成術を導入しております。

 また現在は、開胸せずにカテーテルという細い管を使って血管を通じて弁を運び、留置する「経カテーテル大動脈弁置換術」もあります。

 当院では今後、経カテーテル大動脈弁置換術を行うのに必要な「ハイブリッド手術室」の導入を予定しています。

大動脈疾患

 大動脈は、心臓から直接分岐する血管であり、血液循環の大本です。通常、胸部大動脈は直径2~3cm、腹部大動脈は直径1.5~2cmほどの太さです。大動脈の病気は様々ありますが、「大動脈瘤」と「大動脈解離」の2つが代表的です。
 大動脈瘤とは、動脈硬化をはじめとしたなんらかの原因で大動脈の直径が拡大し、こぶ状になった状態です。多くの場合、動脈瘤は自覚症状のないまま、ゆっくりと大きくなります。腹部大動脈瘤の場合は、場合によっては臍のあたりに拍動するしこりが触れることがあります。しかし、胸部大動脈瘤の場合は、胸の中にあるためにレントゲン写真を撮って初めて異常を指摘されることがほとんどです。非常に大きな胸部大動脈瘤では、声帯の神経を圧迫して声が枯れたり、食道を圧迫して食べ物が飲み込みにくくなったりすることもあります。

 大動脈瘤が恐れられるのは、前触れなく破裂をきたし、大量出血から死につながることがあるためです。胸部大動脈瘤では直径5~6cmを、腹部大動脈瘤では直径4~5cmを超えると破裂の危険性が高くなると考えられますが、破裂の時期をそれぞれの患者さんで予測することは困難です。残念ながら現在大動脈瘤に対して有効な薬剤はありません。治療は破裂の危険性が考えられる場合に、予防的に手術(「人工血管置換術」、あるいはステントグラフトと呼ばれる人工血管を挿入する「ステントグラフト留置術」)を行うことが勧められます。

 一方、大動脈解離とは、大動脈の壁を構成する内膜と呼ばれる部分に「亀裂(エントリー)」が入り、大動脈が縦方向に裂ける病気です。急激に発症することが多く、「急性大動脈解離」と呼ばれます。突然の胸の痛み、背中の痛みをきたすことが多く、急性心筋梗塞と並んで緊急の治療が必要な疾患です。

 心臓の上部から伸びている上行大動脈に解離をきたした場合(A型解離)では、心臓周囲に出血して生命に危険を及ぼす可能性が高いため、緊急手術(人工血管置換術)が必要となります。上行大動脈に解離が及んでいない場合(B型解離)では、基本的に血圧を下げる治療(保存的治療)を行います。
 最近では発症早期に行う「ステントグラフト留置術によるエントリー閉鎖」の有効性も報告されており、当科でも積極的に同手術を行っております。

末梢血管・静脈疾患

 末梢血管疾患とは、足や手の動脈(末梢動脈)が狭くなったり詰まったりして血液の流れが悪くなりさまざまな症状を引き起こす病気です。日本では、動脈硬化の進展による「閉塞性動脈硬化症」や原因不明も症状増悪に喫煙が関与している「バージャー病」が見られます。加齢により、誰でも血管は硬くもろくなっていきますが、糖尿病や高血圧、高脂血症などがあれば、「動脈硬化」はさらに進展します。症状としましては、しびれや痛みがあり、ひどくなれば皮膚潰瘍ができたり、壊死したりする事もあります。

重症度(フォンテイン分類)
Ⅰ度 足が冷たい、しびれる、皮膚が蒼白になる
Ⅱ度 ある程度歩くと足(筋肉)が痛くなり歩けなくなるが、しばらく休むと歩けるようになる(間歇性跛行)
Ⅲ度 安静にしていても足が痛む(安静時痛)
Ⅳ度 皮膚がただれたり(皮膚潰瘍)、黒く変色したりする(下肢壊疽)

治療方法は薬物療法、理学療法、血管内治療、手術治療などがあります。
 薬物療法は、最も基本的な治療法であり、軽症から重症に至るまで全ての段階で目的に応じて至適薬剤が選択されます。理学療法は、軽いジョキングなどの筋肉運動を行なうことにより、血流が乏しい筋肉で血流を増加させるための毛細血管(側副血行)の発達を促し、足への血流を増加させる治療法です。薬物療法と併用することでより効果が得られることがあります。

 血管内治療はレントゲン透視下に血管病変に風船のついたカテーテルを挿入し、血管内から風船を膨らませ血管の拡張を行ないます。風船治療で十分な拡張を得られない場合には、「ステント」と呼ばれる金属の筒を用いて拡張を保ちます。手術療法は、狭くなったり詰まってしまった動脈の先に十分な血液が流れるように人工血管や患者さん自身の血管を用いて血管をつなぎ合わせて迂回路を作成する「バイパス術」と言われるものです。

 血管内治療、手術治療については、国際的ガイドラインであるTASC-Ⅱに沿って、循環器病センター内で循環器内科・心臓血管外科が協力して患者さんに最も適した治療法を選択しています。

 下肢静脈瘤とは、足の静脈にある逆流防止が壊れ、逆流する血液の圧で静脈が蛇行したり、瘤のように膨らみ変形する病気です。足に血液がうっ滞するため、むくみ、だるさ、痛み、こむらがえりなどの症状が起こり、ひどくなると色素沈着、皮膚潰瘍などが出現します。
 日常生活では常に脚の静脈に圧がかかるため、ゆっくりとですが進行性に悪化します。ただし、生命を脅かしたり足を切断するようになることはありません。大変多い病気で、女性、出産経験のある方、立ち仕事に従事している方、家族に静脈瘤のある方に多くみられ、30歳以上の女性の4人に1人は静脈瘤を持っているともいわれています。
 治療の基本は圧迫療法です。医療用の弾性ストッキングをはいて脚に血液がうっ滞しないようにすることで、進行を遅らせ、むくみ、だるさ、こむらがえりなどの症状改善に役立ちます。根本的に治療するには手術が必要となります。
 これまで手術には硬化療法、静脈抜去術がありましたが、2011年より新たに血管内レーザー焼灼術が認可されました。当院にも2018年12月により「血管内レーザー焼灼術」を開始しました。
 下肢静脈瘤は命にかかわることはまず無いので、手術を受けたくない人は一生そのままでもいいわけです。しかし、自然に治ることはなく、症状はゆっくりと悪化していきます。静脈瘤は必要な治療を行えば、確実に症状を改善することができる病気のため、気になる場合はご相談ください。